ヨーロッパ伝承の「ハーブ療法」
健康維持法のひとつとしてヨーロッパで広く活用されていたハーブ療法。
ここではその実践的知識についてご紹介します。
ハーブ療法っていったい何?
民間療法の一種として、古来からヨーロッパで健康維持に用いられてきたのがハーブ療法。そして、その薬効成分だけを抽出して安定供給を目指したのが西洋医学の起源です。
古くは“医学の父”として知られる古代ギリシアのヒポクラテスが、セイヨウシロヤナギの皮を解熱鎮痛剤として用いたことが知られています。そして、現代でも用いられているアスピリンは、このセイヨウシロヤナギの有効成分を化学的に合成したものなのです。
このように、ハーブ療法は、たかが薬草を用いた民間療法と馬鹿にしたものではなく、植物の中に秘められた薬効成分を有効活用するという側面があります。
極端な例を挙げれば、ケシの花からヘロイン、麻からマリファナが精製されることから分かるとおり、一部の植物には人体に常識外れの影響を与える成分すら含まれているのです。麻薬類のように害をなすものがある反面、有益な成分を含む植物だって当然存在しています。
近代的な薬理学では、こうした薬効成分を科学的に解析できますが、古代の人達は経験則だけでこうした植物のパワーを突き止めていたのです。現代人は、研究所で生み出された製薬しか信用しない傾向がありますが、千年二千年という途方もない時間をかけて確立されたハーブ療法には、それに勝るとも劣らない知恵が秘められているわけですね。伝統医学が見直されるようになった現在、ハーブ療法が大きな注目を集めるのは必然と言っても過言ではありません。
また、ヨーロッパには、メディカルハーブといって科学的に薬効性が証明されたハーブも多数存在しています。
英国ハーブ医学ではメディカルハーブ・ハーバルヘルスケア・ハーバルトリートメントの3本柱を軸にハーブの薬学的応用を目指しているのですが、残念ながら日本ではハーブ療法を医学的な手法として公には認めてはいません。
また、EU圏全体としても、メディカルハーブ製品についてはTHMPDという医薬品規制機関の認可登録を受けるシステムに変更されてきており、今後の動きが注目される状況となっています。
ただ、ハーブ専門医という職務資格があるほど一般に認知されていることを踏まえれば、これから代替医療として広く活用される時代が来る可能性もあるでしょう。
またメディカルハーブに限らず、ハーブは健康食品としての市場は桁外れに大きく、例えばアメリカではハーブ由来の健康食品市場の規模が5,000億円以上と言われているほど。ヨーロッパ伝統のハーブ療法が文化レベルで現代人の生活に浸透していることがよく分かります。
それに、植物を利用して健康維持するという考え方は中国の漢方と同じ。一定の薬効が認められることは、考えてみれば当たり前のことだと思います。
もっとも一般的なハーブ療法
ハーブ療法と表現するにはやや大げさかもしれませんが、やっぱり特に一般的なのはアロマ・ハーブティーでしょう。
ヨーロッパで代表的なのはエルダーフラワーティーです。身体を冷やしてしまった時や風邪を引いた時に飲むと効果があるそうで、今でもエルダーフラワーを砂糖で煮たシロップが風邪の時に重宝されています。
アメリカではエキナセアというハーブに薬効作用があると言われており、インフルエンザ・風邪などに伴う喉の痛み・発熱を和らげると言われています。このエキナセアは花粉症軽減や免疫強化に有用とされ、サプリメントも大人気です。
アロマに目を向けると、18世紀に大流行したペスト予防にラベンダーが用いられていたことが挙げられるでしょう。ラベンダー園の労働者やラベンダー精油を用いる革職人のペスト罹患率が低かったことが注目され、ペスト予防に用いられるようになったのです。
さらにフランス人のガトフォッセは、ラベンダー精油に手を浸すと火傷が治りやすくなることを偶然に発見し、ラベンダーの薬効性は大きく広まりました。
こういった事実を受け、アロマテラピーという分野が発達していったのです。その他、ハーバルバス(ハーブ風呂)やハーブエッセンスを含む蒸気の吸引によって、免疫効果が高まったり、花粉症を軽減したりする効果を期待できることも有名。
精神的なリラックス効果と合わせて考えれば、医学へ応用する余地は多分にあるといえるでしょう。
実際、国内でもメディカル・アロマテラピーと称して心療内科の治療補助に役立てたり、手術前の不安感を和らげる目的で利用されている例があります。
また、入院中のがん患者をリラックスさせるため、病室にラベンダーのエッセンシャルオイルを置く病院もあるようです。
さらにQOLの向上、未病から病気へ進展するのを防ぐ目的でアロマテラピーを利用しているところも出てきました。これからの医療を考えていく上で、ハーブの薬効は注目すべき重要な位置を占めているといえます。
本格的なハーブ療法に挑戦!
ここでは、ハーブ療法を本格的に試してみたい&ケアに取り入れてみたい方に向けて、具体的な効能をご紹介したいと思います。
セントジョーンズワート
和名では西洋弟切草と呼びます。このハーブは不安を和らげ、憂うつな気持ちを改善する効果を持っているのです。鬱症状の緩和に一定の効果が望めるでしょう。
エキナセア
免疫を活性化し、病気に対する抵抗力を向上させる効果があります。風邪やちょっとした感染症はもちろんこと、インフルエンザ予防まで期待できるんだとか。
イチョウ葉
血流をスムーズにすることで、生活習慣病を予防する効果があるそうです。頭脳を活性化する力も持っているので、集中力を高めたい時などにオススメ。実際、日本でもイチョウ葉エキスとしてサプリメントが発売されています。
ノコギリヤシ
前立腺の肥大を予防することができ、中年男性の排尿に関する悩みを解消してくれます。こちらもサプリメントとして広く販売されていますね。
オオアザミ
別名はマリアアザミ。二日酔いの体調不良を緩和する効果があり、傷ついた肝臓を修復するほどの力を発揮するんだとか。ウコンより効くかも!?
カモミール
別名ではカミツレとも呼ばれます。抗炎症作用・抗アレルギー作用がある他、肌の調子を整えたり冷え性・貧血を緩和する働きがあります。
ヤロー
西洋ノコギリソウとも呼び、緊張をほぐしたり気力の衰えを奮い起こすのに用いられるハーブです。女性の場合には月経不順を緩和したり更年期障害を和らげるためにも使われるそうです。
フィーバーフュー
憂うつな状態を改善したり、関節炎を緩和したりと幅広い効能があります。虫除け効果があるため、精油を薄めて肌に吹き付けることで蚊に刺されるのを防ぐこともできるようです。また、最近の研究ではパルテノライドという成分が発毛・育毛を促す可能性があるということで注目されています。
ラベンダー
ストレスを和らげる効果があり、不眠の改善に用いられます。頭痛・筋肉痛・月経痛を和らげる作用も知られ、そのほかに日焼けの炎症を抑えたり火傷の治癒を早める効果があるようです。
《注意事項》
一部のハーブに関しては、その成分が医薬品との併用禁忌成分にあたる場合があります。
例えばセントジョーンズワートの場合、血液凝固剤・抗ウイルス剤・強心薬・経口避妊薬などと併用した場合に薬の効き目を弱めることが分り、厚生労働省が注意喚起を行いました。
さらにイチョウ葉についても、国民生活センターが“アレルギーを引き起こす恐れがある”と発表しています。
メディカルハーブのように薬効性が高いハーブについては使用にあたって医薬品とほぼ同様の注意が必要です。
そして、だからこそ医薬品について深い知識を持っている看護師・医師・薬剤師といった医療従事者は、ハーブについても充分な知識を持っていなくてはならないのです。